旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語』(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に 出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えました。いま世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆とともに、旅先ではこのブログを書いています。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語」(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えます。それからは世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆をする予定。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

片道料金がなぜ往復より高いのか?

ロンドンから列車でカンタベリーに行くだけなので、今朝は少し遅めに起きる。1階のレストランで朝食を食べている時に、カンタベリーに直行しても、ホテルのチェックインタイムよりも早く着いてしまう、そこでどこかロンドンの名所に寄ろうと考えた。地図を見ると、ヒースロー空港から地下鉄のピカデリー線でピカデリー・サーカスまで行くと、鉄道のチャリング・クロス駅まで歩く途中にナショナル・ギャラリーとトラファルガー広場があることがわかったので、そこに寄ることにした。

ピカデリー・サーカスに行ったのは20何年振り。この広場からは放射線状に道が伸びているので、方向感覚がわからなくなってしまい、道に迷ってしまった。通りがかりの、旅行者ではなさそうな人に道を聞くと、全くの反対方向だということがわかる。

その時ふとNYに住んでいた友人のG君のことを思い出した。私が以前勤めていた出版社は渋谷にあったが、同じように駅から放射線状の道が伸びている。G君が日本に帰ってくるたびに私の会社を訪ねてきたが、毎回必ず道に迷って、結局最後には私が迎えに行くはめになった。

渋谷を良く知っている人なら、109を左に行くと道玄坂、右に行くと東急本店があり、駅から山手線に沿って原宿方面に行って、左にある公園通りの坂を昇るとパルコからNHKホールに至る。山手線のガードをくぐると宮益坂、南口の方でガードの下を走るのが青山通りなどということは常識だろうが、確かに初めての人にとっては分かりにくい。

話を渋谷からピカデリー・サーカスに戻すと、そのサークルの周辺をうろうろして、ナショナル・ギャラリーにたどり着くまでに1時間近くかかってしまった。道に迷わずに行けば、たった10分でいけたところだ。

大きなスーツケースを転がして、大変な思いをしてナショナル・ギャラリーに来たものの入口にいた係員が「館内にはスーツケースを預かるクロークもコインロッカーもないので、チャリング・クロス駅で預けてまだ戻って来るように」と言う。その入り口の前にはトラファルガー広場沢木耕太郎が、あの『深夜特急』で最終地点に決めたライオンの像で有名な広場で、物凄い数の人々でごった返していた。

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その広場を右に見ながら、人込みをかき分けて石畳の上をスーツケースを転がして駅まで行こうとするが、また道に迷い、何人もの人に聞いて、やっとのことで駅にたどり着いた。

駅のインフォメーションで荷物を預ける場所を聞いて、そこに行くと「3時間まで7ポンド50だ」と言う。荷物を取りに来た時に、お金を払えばいいと言うので、荷物を預ける。売店でフランス風のバケットに卵を挟んだサンドイッチを買い、それをコーヒーで流し込んで、またナショナル・ギャラリーに急ぐ。来る時は道に迷い30分もかかってしまったが、実際はすごく近くて、10分で戻ることができた。

バックパックをクロークに預け、オーディオセットを借りて、絵を見始めたのだが、気になる絵に関してのみ解説を聞いて、あとはサッと眺めるだけにした。ミケランジェロやラファエル、レンブラントなどの名画がたくさん並んでいた。暗い部屋にフェルメールの「ヴァージナルを弾く女性」という作品もあった。ヴァージナルとはチェンバロが発明される前の楽器で、鍵盤をたたくと弦をひっかいて音が出るのだと言う。フェルメールが遺した十数枚の絵の中の1枚だと言うのに、その前にはひとっこ一人いなかった。日本だったら考えられない。

結局3時半まで2時間かけて全ての部屋を廻ることができた。せっかくオーディオセットを借りたのに、解説を聞いた絵画はほんの10枚程度だったが・・・。

すぐにチャリング・クロス駅に取って返し、スーツケースを受け取り7ポンド50を払った。券売機でカンタベリーまでの切符を買おうとしたが、画面にはなぜか往復料金だけが表示され、どうしても片道料金が出て来ない。何度かやっているうちに片道の料金が表示されたが、何と「37ポンド」だと言う。高すぎるので、おかしいと思い、やはり行列に並んで窓口で買うことにする。

私の番になった時には、410分の出発まで10分もなかった。「大人1枚、カンタベリーまで」と言うと「片道か? 往復か?」と聞く。「片道だ」と応えると、「往復の方が20ポンドで、片道が37ポンドだ」と言う。何を言っているのか理解できず、自分の英語のヒアリングの力が急に落ちたのかもしれないと不安になった。だが、何度も聞いても同じ答えが返ってくる。「片道が20ポンドで、往復が37ポンドじゃないのか?」と聞くが「違う、逆だ」と言う。最後に私が「とにかく安い方で」と言うと、切符を2枚出してくれ、私はクレジットカードで20ポンドを払った。

さっきサンドイッチを買って食べた売店で水を買おうと思ったが、3人並んで待っていたので、諦めてカンタベリー行きの列車が出る4番プラットフォームに急いだ。途中で、前を歩いていた女性が「どこに行くのか」と聞くので「カンタベリーまで」と応えると、「電車は途中で切り離しになるので、前の方に乗った方がいい」と親切に教えてくれる。

列車は410分、定刻に出発した。その時、自分がものすごく喉が渇いていることに気がついた。今朝、ヒースロー近くのホテルで、ビンのボトルの水を飲んだだけで、その後摂取した水分といえばコーヒーだけ。私は血圧が高く血圧を下げる薬も飲んでいるのだが、やはり定期的にきちんと水分をとらなければならない。このまま喉の渇きが進めば、血液が固まって、気を失って倒れてしまうかもしれないなどと思い始め、急に不安になった。 

切符を買った後、行列に並んで売店で水を買えば良かったと後悔するが、後の祭り。日本ならどこにでも、飲み物の自動販売機があるので、ほんの数秒で水を買えるが、イギリスではそうはいかない。

海外では、ちょっとしたことが命取りになってしまう。カンタベリーに着くまでの2時間45分、ひたすら喉の渇きに耐えたのだった。喉の渇きはどうにかなるが、血が濃くなって血圧が上がってしまうかもしれないと思い、きが気ではなかった。お陰で景色を楽しむような気にはなれず、ひたすら深呼吸をして呼吸を整え自分自身が倒れないように気分を落ち着かせる。555分にカンタベリー駅に着いた時には、「ああ、これで死なずに済んだ」と胸をなで降ろしたのだった。

駅で降りて、最初に見つけたスーパーで水を買って、がぶ飲み。カンタベリーの教会は、英国国教会の総本山。ホテルはその門のすぐ横にあり、その名もCathedral Gate Hotel。スーツケースを持ち上げて階段を昇り小さなフロントに行き、カギを受け取って、また階段を4階まで上がる。部屋に案内してくれたフロントの女性が、「何しろ15世紀にできた古い建物で、その頃からホテルとして使われていました。まだエレベーターがなかった時代なので・・・」と申し訳なさそうに言う。部屋は小さくトイレやシャワーも共同だが、なかなか趣のあるホテルだ。

夕飯は軽く済ませようと思い「簡単に食べられるレストランはあるか」とその女性に聞くと、「近くにHappy Samurai、あるいはwagamama (わがまま)という日本料理の店がある」と言う。その時、彼女が「わがままってselfish のことでしょ?」と言ったので驚いてしまった。「なぜ知っているの?」と聞くと、I studied Japanese.と応えたのだった。