旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語』(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に 出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えました。いま世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆とともに、旅先ではこのブログを書いています。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語」(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えます。それからは世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆をする予定。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

ハリー・ポッターとベアトリクス・ポター

96日にフランス・イギリス・タイの旅を終えて日本に帰ってきたのだが、NHK文化センターでの講義が控えていたので、そちらにかかりっきりになり、ブログを全く更新できないまま(まあ、このブログでは毎回長い文章を書いているので、他のことと同時並行的にできるはずもないのだが)、もう106日(土)になってしまった。

だが、来週の108日から13日までハワイに行くことになっている。もう次の「旅三昧」が始まってしまうのだ。だから8月下旬のスコットランド湖水地方のドライブのことを今日明日中に書いておかなければ、続きを書き始めることはできない。

故に、さかのぼって826日(日)から話を進めたい。

エジンバラのホテルから空港近くのレンタカー・プレースまでタクシーで行く。後から知ったのだが、ホテルの近くには空港と市街を結ぶトラムが走っていて、近くの駅から3駅でそこに行くことができたのだった。重い荷物を運ぶのは大変だったのかもしれないが、お金はかなり節約できたはずだ。ちゃんと調べておくべきだった。

広いレンタカー・プレースの一番端にオフィスがあり、そこにはいくつものレンタカー会社の受付カウンターが入っていた。私たちが車を借りるAvisには一番長い列ができていた。待つこと30分、やっと番が来た。レンタカーを借りる時がまたいつも大変なのだ。いろいろな保険や補償があったりして複雑極まりない。恐らく日本語で話を聞いても理解できないだろう。

対人・対物はもちろん、同乗者にかける保険もある。他にも、やれレスキューだ、レッカー車だ・・・と、多くの補償をつけていると、どんどん料金が高くなる。ほかにはcollision damage waiver(免責補償)というのがある。日本にもあると思うが、例えば事故を起こした場合、保険に入っていたとしても5万円は自己負担しなければならない。それが免責になるという補償制度だ。

まだまだある。ほとんど妻が運転するのだが、もうひとりの同乗者(つまり私)も運転する場合は、1日に15ポンド(2250円)かかるというのだ。6日だから計13500円。万が一、妻に何かあって急に私が運転しなければならなくなった場合、この保険に入らずに私が運転して事故でも起こしたら、全ての補償がおりない。保険が無効になってしまう。アメリカでは、同乗者の追加料金など聞いたことがない。国際免許さえ持っていれば、同乗者は誰でも運転することができるのだ。

今回の旅で一番問題だったのがGPSだ。イギリスのレンタカーには、ほとんどGPSがついていない。それも車に備え付けではなく、車を離れる時には取り外しするようになっている。盗難が多いからだ。そのGPSを借りると、さらに4万円を余計に払わなければならない。しかも予約していったとしても、必ず使えるという保証はないのだと言う。

GPSがないとなると、iPhoneの地図アプリを使うことになる。だが、私は普段海外に行ってもiPhoneroaming(その国の電波事業者に加入すること)しないし、WiFiも使わない(アメリカではソフトバンクの「アメ放題」というのがあるので、日本と同じように使っているが)。夜だけ、ホテルのWiFiを繋いでブログを書きアップするようにしている。それだけで十分なのだ。

ちょっと不便なのは、昼間にiPhoneの地図が使えないこと。だから、1人でフランスとイギリスを廻っていた時には、前の晩に翌日泊まる予定のホテルをPCで検索し、画面の地図を写真に撮っておくようにしていた。無駄なお金を使わないように、涙ぐましい努力をしてきたのだ。

1週間とか10日くらいの旅行だったらいいが、私の場合は25日間。ロミングは1日最高で3000円近くになることがある。すると7万円になってしまう。また「イモトのWiFi」は、日本の空港で借りて空港で返すことになる。するとこれも8万円くらいかかる。しかも1か国限定なのだと言う。日本ではあまりなじみがないが、シムカードというのもある。でも、これも同じように高額になってしまう。

私が昼間にiPhoneが絶対的に必要になるのは、826日から30日の5日間だけ。つまりレンタカー運転のためにGPSを使う時だけだった。そんなことで、妻がボンマスの携帯ショップでヨーロッパ中で使えるスマホ80ポンドで買ってくれていた。これなら、次にヨーロッパに来た時に、シムカードを入れればまた使うことができる。そのスマホと日本で買った大きな地図があれば、迷子にならずに運転できるだろうと思った。ところが、すぐにそれが大きな間違えだということに気づくことになる。

全ての保険や追加補償を決めると、受付カウンターの女性スタッフが「車はメルセデスベンツでいいですか?」と聞くので、「それだと、さらにもっと料金を払わなければならないのでは?」と言うと「料金は同じです」との応えだった。

ナンバーを照合しながら歩くと、その黒いメルセデスベンツがあった。まず大きなスーツケースをトランクに入れようと思ったが、トランクの開け方がわからない。妻がエンジンをかけてランプをつけようとするが、ライトの点灯の仕方がわからない。いろいろいじくっていたら、ワイパーが動き始めた。ハンドルの位置も高いので、直してもらう必要がある。それからギアーをパーキングからドライブにしてみた。最初「D1」と表示されていたが、いつの間にか「D2」になってしまう。この違いはなんなんだろうか? それからサイドブレーキの場所がわからない。

分厚い英語の運転マニュアルがあったのだが、それらの疑問の答えがどこにあるのか全くわからない。最初から読み始めていたら、日が暮れてしまう。

Avisの人に来てもらって全てまとめて質問する。まずトランクは、後ろのドアの真ん中を押せば開くことがわかった。ところがスーツケースが1つきり入らない。もう1つは後部座席に置き、妻のカート付きの小さ目のスーツケースをトランクに入れる。ランプの点灯の仕方を教えてもらい、ハンドルの位置も直してもらった。ギアの「D1」と「D2」だが、これは車が走行速度に従って勝手に変えるので気にしなくてもいいと言う。サイドブレーキは車が停止すれば、自動的にかかるので、これも気にしなくてもいいのだと言う。とても親切な黒人のスタッフだった。最近の車はみんな自分で勝手に判断してくれるらしい。日本で古い車に乗っている私と妻はついていけない。

まず、こちらに来て買ったスマホgoogle mapを頼りに、スーパーマーケットに行くことにする。昨日、飛行場の手荷物検査で妻の化粧品や化粧水やクリームを大量に捨てられてしまったので、それらを買わなければならない。イギリスには「TESCO」というスーパーがどこにでもあるので、私がスマホの地図でその店を検索すると10分で行けることがわかった。

妻は車を動かし始めた。イギリスには「ラウンドアバウト」と呼ばれるロータリーがあって、運転しにくいことこの上ない。そこに入ると、出口が4か所も5か所もあって、どっちに行ったらいいのかわらなくなる。だいたいまっすぐ行きたくとも、まっすぐがどの道なのかわからないのだ。

道を間違えて、違う方向に行ってしまう。すると、日本なら左折して細い道に入り、その先でUターンして元の道に戻ればいいが、対向車線との間には高い縁石がありそっちには行けない。その先もUターン禁止なので、何キロも先にあるロータリーでぐるっと回って戻ってくることになる。でも、また出口を間違えて違う道に入ってしまうと、またその何キロも先のロータリーまで行かなければならない。そんなことを何度も繰り返していると、目的地からどんどん遠ざかってしまう。

このスマホgoogle mapも、車がどっちの方向に見ているのかが正確に表示されない。だからどうしてもロータリーで違う道に入ってしまうのだ。

30分走っても40分たっても、そのスーパーにたどり着けない。何度かその地図にあるポイントには行ったと思うのだが、そこは大きな銀行の敷地で、近くにお店はありそうもない。

結局、スーパーに行くのは諦め、どうにかこうにかエジンバラの街を出て、インバネスネス湖)方面に向かうハイウエィに入ることができた。だがもうその頃には、1時になっていた。何とレンタカーを借りてから3時間が経過していたのだ。

ハイウエィはロータリーがないので道に迷うこともない。何度かドライブインで食事をしたり、カフェに入ったりして休憩して、インバネス10キロほど先にあるDingwallという村のホテルに着いた。午後7時を過ぎていたが、まだ明かるかった。雄大な自然に囲まれた、こぢんまりとしたホテルだった。ここも場所がわかりにくく、スマホの地図を最大に拡大して、かろうじてたどり着いたのだった。

ホテルの名前はKinkel House 。口コミを読むと、「入口の前にある小さなフロントには小学生くらいの子供がいる。とても気が利く子だった」と書いてあった。確かに10歳くらいの子供がいて、カギを渡してくれた。「夕飯はこのホテルのレストランで食べますか?」と聞くので、「どんな料理があるのか、メニューを見たい」と行くと、すぐに厨房に行って持ってきてくれた。

周りには何もありそうもなかったし、インバネスの町に行ったら、また道に迷って戻ってくることができなくなる可能性もあったので、ホテルのレストランで夕飯を食べることにした。その少年にその旨を伝えると、「時間は何時にしますか?」と聞いてきた。「少し休んで30分後でお願いします」と言うと、「わかりました」と言ってメニューを受け取る。確かに何をするにしてもそつがない少年だった。

レストランには、私たちの他に3つのグループ。隣のテーブルには老夫婦とまだ30半ばの夫婦、4人が座っていた。家族のようだ。そのテーブルにケーキが運ばれ「Happy Birthday」の歌を歌う。娘さんの誕生日のようだ。私も「Happy Birthday!」と声をかけた。

私たちが日本から来たこと、妻は2か月間ボンマスの英語学校に行っていたこと、昨日エジンバラに着いて、明日ネス湖に行って、南に下りハドリアヌスの長城を見て、それから湖水地方に行くことを説明したら「Lovely」と言う。「湖水地方はとても美しいところで、ピーターラビットの物語がそこで生まれました。ぜひベアトリクス・ポターの博物館に行くといいですよ」と勧めてくれた。

食事の後、妻は「ハリーポッターって、湖水地方の話なの?」と聞く。勘違いしているようなので説明する。「ハリー・ポッターではなく、ピーターラビットというウサギの話を書いたのが、ベアトリクス・ポターという絵本作家なんだ」。どこまでわかってくれたのか?