旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語』(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に 出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えました。いま世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆とともに、旅先ではこのブログを書いています。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語」(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えます。それからは世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆をする予定。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

アエロフロート最高!

久しぶりに書く。令和になって1か月以上が過ぎたのだが、何かもうずいぶん前だったような気がする。

2019610日(月)、成田からオーストリアのウィーンへ、モスクワ経由のアエロフロートで飛ぶ。モスクワへの飛行機に搭乗した時、私の席は窓側3人掛けの通路側だった。窓側の席に外国人の女性がいて真ん中は空いていた。ひとつ後ろの席を見ると、3席がまるまる空いている。横の中央の4席にも男性がひとり座っているだけだ。搭乗を締め切る時間になった頃、横を通りかかったフライトアテンダントに、後ろの席を指さしながら「Can I move to this seat?」(この席に移ってもいいですか?)と聞くと「OK!」と言う。窓側の席に女性に「You can sleep.」と言って後ろの席に移ると、「Thank you!」とお礼を言われた。これでゆっくり横になって寝て行ける。

アエロフロートに乗ったのは、25年ぶり。フランクフルト・ブックフェアが終わって、スペインのマドリッドで出版社の社長に人に会った後、モスクワに寄ってNHKモスクワ支局長の小林和男さんと次に出す本の打ち合わせをした。後に日本エッセイスト・クラブ賞を受賞することになる『エルミタージュの緞帳』だ。この時、小林さんの頭の中には、ぜひ多くの人に知ってほしいと思うロシアでの自分の経験があったが、私の頭には何もなかった。それが1年後には現実に本という形になって世の中に出た。いま考えると不思議だ。

小林さんとの打ち合わせを終え、私はモスクワからアエロフロートの便で日本に帰った。この航空会社は当時から評判が悪かった。「食事の時に黒パンを投げてよこした」とか「シートベルトのバックルがなく、腰のところで結んだ」とかの“怪情報”が飛び交っていた。ロシアに関する本を書いてもらうんだから、編集者もせめてアエロフロートにも乗ってみようと思ったのだ。そうすれば、ロシアという国を少しはわかるかもしれない。当時ロシアは混乱の中にあった。アエロフロートという会社自体もかなり混乱していたに違いない。

でも実際はどうかというと、私はとても良い印象を持った。フライトアテンダントが決して上手とは言えない日本語でアナウンスしたり、一生懸命にサーブする姿を見てなぜか感動してしまったのだ。国はダメ、会社もダメだけど、実際に乗客と接する自分たちが最前線で少しでも頑張ろうという、まっすぐな気持ちが伝わってきたからだ。人にも一生の間には逆境がいくつかやってくる。でも、それを乗り越えた時に、きっと素晴らしい未来が待っている。そんなことを考えさせられた出来事だった。

そして、いまアエロフロートはどうなっているのか? 3人分の席を占領したからではないが、座席も広くてすごくリラックスできたし、食事もとてもおいしかった。アエロフロートは最高だ!

食事後にコーヒーを飲んだ。蓋が青くて白い容器に入ったものをミルクだと思ってコーヒーに入れたら、ドレッシングだった。ひょっとしたらおいしいかも・・・と思って飲んだがやっぱりまずかった。この容器の感じはアメリカなら絶対にミルクだ。女性のフライトアテンダントにそのドレッシングの容器を指さして、「I thought this was milk.」(これ、ミルクだと思ったんです)と言ったら「I’ll bring you the new coffee.」(新しいコーヒーをお持ちします)と言ってニコッと笑う。すぐに別の男性のフライトアテンダントが新しいコーヒーを持ってきてくれた。素晴らしい連係プレイ!

窓側の3席を独占して寝ていると、1年前まで勤めていた会社ではみんな一生懸命に働いているんだろうろうな、いいんだろうか?と何か申し訳ない気分になってくる。でも、自分だって41年も働いてきたではないか、と思い直す。「働き方改革」などとは無縁のハードワークだった。夜中の0時過ぎに帰ろうとしたら、隣の雑誌の班では「おーい、全員集合!」という声がかかる。まだ、誰も帰ってなかったんだ。すごい時代だった。

席を立ってトイレに行く時に気がついた。ガラガラなのは私の周辺だけで、他の席はほとんど埋まっているではないか。なせだろうか? 思ったのは、私の席は翼の上。そこでは外がよく見えない。だから敬遠したのか? でも翼の上が一番安全だと言われている。私はいつも通路側の席を予約している。外の景色は関係ない。

機内では映画を2本観た。観たいと思っていたのだが、観られなかった「A Star Is Born」と「散り椿」。「A Star Is Born」は、バーでウエイトレスをやっていた女性が、その店の舞台で歌っているのを有名な男性歌手が偶然見て、自分のコンサートでも歌わせたりして大歌手に育て上げていくというストーリー。かなり評判になった映画だ。最後になって、この女優がレディガガであることに気づいた。そうだ! レディガガが主演していることでも、この映画は話題を呼んだのだ。すっかり忘れていた。

散り椿」は岡田准一君がキレッキレの殺陣を見せていた。最後のタイトルロールで、「殺陣」のスタッフの名前が56人ほどあったが、その最後には「岡田准一」という名前もあった。ただ単に殺陣師に言われるままに演じているのではなく、自分でもいろいろなアイディアを出したのだろう。そのタイトルロールだが、主演者やスタッフが自分の名前を直筆でかいたものをそのまま使っていた。それに気づいたのは、監督の木村大作(カメラマンとしてもすごく有名な映画人)の名前がかなり崩して書いてあったからだ。

シェメレチョボ空港に着いてから、ウィーン行きの飛行機に乗り代え。その間4時間待つという予約していた。ネットで乗り継ぎ便を予約する時、どのくらい時間を空けるかは、いつも真剣に考える。アメリカの大都市に着いてから小さな町に行く場合などは、まず入国審査があり、荷物を受け取って、国内便に乗り代えるから3時間、あるいは4時間余裕を見ておなないとまずい。でも、モスクワでは預け荷物は受け取らないし、単なるトランジットだ。だから2時間後の飛行機でも良かったかもしれない。

だが、4時間も時間を空けて正解だった。飛行機を降ると、すぐにまたパスポート・チェックと荷物検査で1時間半、その後歩いて他のターミナルのゲートへの移動に4050分。これだけで2時間近くもかかってしまう。

だが、ゲートに行ってみると、ウィーンへの便が1時間45分遅れることがわかった。4時にモスクワに着いて午後8時の便に乗り代えるはすだったのが、945分に変更されていた。何と6時間も待たなくてはならない。

本を読んでいたら、すぐに8時になった。本当なら、この時間にウィーン行きの飛行機に乗れていた。計画としては良かったのだが、飛行機の遅れのため、まだ2時間もある。お茶を飲み、食事をしてひたすら待つ。たまにiPhoneでも見ようと思ったが、日本を出る時に、SIMカードを解除して外してしまったので、空港のWiFiとも繋げない。パソコンも携帯にパスワードなどの情報が送られ、それをもとにWiFiの電波をもらう仕組みなので、ネットが開けない。

ソフトバンクで「SIMカードは日本で飛行機に乗る時に外した方がいい」と言われたのだが、iPhoneが使えないということが、こんなに不便だったとは! その時ふと気づいたのだが、予約したホテルの情報は全てiPhoneに入っている。もし、深夜に着いた空港でSIMカードの店が閉まっていたら、どうしたらいいのか? ホテルは自分で予約したのだが、ホテル名ははっきり覚えていない。となると、ホテルにたどり着けないではないか。

思い切ってiPhoneを開くと、SIMカードは入っていなくとも、これまでのメールは見ることができた。ウィーンのホテルは「Novotel Suites Wein City」ということがわかり、手帳にメモする。これで大丈夫だ。

深夜0時、飛行機はウィーン空港に着いた。やはりSIMカードを売っているカウンターには人はいなかった。しかたない。明日ホテルの近くでモバイルショップを探しすしかない。

タクシーに乗って、「Novotel Suites Wien City」と言うと、すぐに走り始めた。ホテルに着いてフロントで名前を言うと「予約に名前がない」と言う。確認すると「このホテルはNovotel Wien Cityで、Novotel Suites Wien Cityではない」と言う。なんと紛らわしいことか!

フロントの男性は親切にもタクシーを呼んでくれて、宿泊するはずのホテルへ。途中に観覧車が見えてきた。あの「第三の男」の最後のシーンで出てきた観覧車だ。きっと何度も改修や新設もされているだろうから、当時のものとは違うのだろう。

結局ホテルに着いたのは、午前2時になっていた。