旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語』(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に 出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えました。いま世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆とともに、旅先ではこのブログを書いています。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語」(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えます。それからは世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆をする予定。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

ザルツブルグからチェスキー・クルムロフへ。昼食抜きの列車の旅

620日(水)、ザルツブルグのホテルを11時半にチェックアウト。ウィーンのホテルではチェックアウトの時に「もうカードから引かれているので支払いは済んでいます」と言われのだが、「カードにしますか? キャッシュですか?」と聞かれる。「ウィーンのホテルでは、もう手続きが終わっていると言われたんですが、ホテルによって違うんですね」と言うと、「Yes.」と答えた。宿泊代は4泊で505ユーロ。クレジットカードで払い、急いで駅に。12時に出る列車で、チェコのチェスキー・クルムロフという村に向かい宿泊する。

ここには立派なお城があり、中央ヨーロッパを巡る旅では“定番”となっている。日本人のツアーではプラハから日帰りすることが多いようだが、以前新聞で「チェスキー・クルムロフに宿泊する旅」という謳い文句の広告を見たことがある。

ザルツブルグからだと、いったんウィーン方向に戻り、リンツという駅で乗り換え、プラハ行きの列車に乗る。だがプラハまでは行かず、途中のチェスケー・ブディヨヴィッツェという、ものすごく発音しにくい駅で乗り換え、ローカル線でクルムロフに行くという行程。

さて、最初はリンツに行かなければならない。この前ウィーンから乗った列車では「予約」が必要なかった。だから元に戻る場合でも必要はないだろうと思ってプラットホーム行こうとしたが、念のため電光掲示案を見ると「WIEN 1200」の後に「WITH RESERVATION」という表示がある。予約が必要だった。

インフォメーションで聞くと、「もう12時のウィーン行きはfull(満席)だ」と言う。「では次の列車の予約はどこでしたらいいのか?」と聞くと「駅の構内から出で左の方にチケット売り場がある」と言って、その方向を指さす。こんなに立派な駅なのに、チケット売場がなぜ駅構内にないのか?

駅を出て、オーストリア国鉄OBBのチケット売り場らしきところを探すが、それらしきところはない。150mほど先に「QBB」と表示されているビルがあったので、そっちに行ってみる。チケットを買って駅に戻って来る人も誰もいない。閑散としている。階段があったので、重いスーツケースが持って上がる。ドアを開けてみたが閉まっている。おかしいな、どこなんだろう?と思っていると、そこにひとり男性がやってきて「チケット売場はここか?」と私に聞く。顔立ちからしバングラディッシュとかパキスタン系かもしれない。インド人ではないだろう。「私もいま探しているところです」と答えて、また駅の方に戻りながら可能性のありそうな建物を探す。

弱った、これでは今日中にホテルに着けるのだろうか? 今日宿泊するのはホテルというよりペンションかBBといったところ、チェックインは7時までだ。

いつも感じるのだが、海外ではこんなハプニングがよく起こる。日本ならたった3分で終わることが10分も、場合によっては30分もかかることがある。

2人で何人かの人に尋ね歩いて、やっとチケットが買える建物がわかった。駅から出たすぐ目と鼻の先の白いプレハブのような小さな建物だった。これではわかるはずがない。譬えてみれば、東京駅の新幹線の切符売り場が八重洲口とか丸の内口を出たすぐ前の掘立小屋にあるようなものだ。

4人ほどのスタッフがそれぞれコンピューターの横に座っていた。私は一緒にこの場所を探した男性にお礼と言って「お先にどうぞ」と言ったが、その人は「いや、あなたの方が急いているようだから」と言って先に手続きをさせてくれた。本当に親切だ。

カウンターのヒゲの男性スタッフにユーレル・パスを見せて「リンツ経由でチェスキー・クロムルフに行きたいので、リンツまでの予約をしたい」と言うと、「1212分の列車がある」と言う。なんだ、そんなにたくさん列車が出てるんだ。「ファーストクラスです」というと「ファーストでもセカンドでも料金は変わらない」と言う。パスがあるので運賃はかからないが、予約料金は支払わなければならない。3ドルだと言うので、クレジットカードを出し、PINコード(暗証番号)を入力する。予約券と領収書を渡しながら彼は言った。「この予約にどんな意味があるのか、僕もよくわからないんだけどね」。

最後にコンピュータのキーを叩いてクルムロフまでのスケジュールをプリントしてくれた。乗り換え駅の到着時間、次の列車の出発時間、それに何番線から出るまで明記されていてとてもわかりやすい。そして最後にユーレル・パスの四角い空欄にスタンプを捺してくれたではないか。ウィーン駅で誰がどこで捺してくれるのかQBBの人に聞いても、誰もわからなかった待望のスタンプだ。

階段からホームに上がったところにいた車掌に予約券を見せ「何号車ですか?」と聞くと、「席は決まっていないので、どの車両に乗ってもいい」と言う。えっ? それなら何のための予約? 先ほどカウンターのQBB職員が言った「予約にどんな意味があるか、僕にもよくわからない」というのは、このことなのか?

セカンドクラスの車両に乗り込み、スーツケースを押しながら通路をファーストに向かう。韓国語を話している4人の若い女性が向かい合って座れる座席を確保して、棚に荷物を載せていた。彼女たちもクルムロフへ行くのだろうか? それにしても乗客が少ない。1車両に5、6人もいればいいほうだ。さらに進むと、4人分の向かい合った席があったので、その間にスーツケースを置いて座る。スーケースに脚を載せてくつろげそうだ。

電車が動き始めると、昨日近くの店で買っておいたサンドウィッチを頬張る。朝食べてからホテルを出ようと思ったのだが、列車で食べることにしたのだ。

1時間20分ほどでリンツ駅に到着。128分着の予定が5分遅れた。次の列車が出るのは35分発。あと2分しかなない。ザルツブルグの駅でもらったプリントには、その列車が発車するホームの番号があった。「2A」となっている。重いスーツケースを下げて階段を降り、2番線のホームへまた階段を駆け上がる。階段からずっと後ろの方に電車は泊まっている。向かの1番線には違う電車が停まっていて、韓国人の女性たちは階段から反対方向に向かって走っている。プラハ行の列車だろう。

ギリギリで“チェスケー何とか”行の列車に乗ることができた。ザルルブルグの駅でスケジュールをプリントしてもらってよかった。乗り換えの列車が何番線から出るか明記されていたからだ。降りてから人に聞いていたら、絶対に間に合わなかった。

1時間ほど走った頃だろうか? 駅の表記が変わっていることに気づいた。SとかRなどの上にVのようなマークがついている。きっとあれはチェコ語だ。いつの間にか国境を越えてチェコに入っていたのだ。そのせいか、車窓から見える森や牧草地の緑が、いっそう濃くなったような気がする。

リンツから2時間20分で、“チェスケー何とか”の駅に着いた。プリントにはクルムロフ行きが何番線か書いてない。他の旅行者も迷っているようだ。ホームから下の通路に降りてうろうろしていると、さっきまで乗ってきた列車の車掌が来たので聞いて見たが、わからないと言う。「こっちに来い」と言われ付いていくと、駅構内にパネル式の掲示板があった。そこにはクルムロフ行の電車が何番線か出るのかという表示がなかった。車掌は「出発時間が近づくとホームの番号が表示されるから、確認してから行くように」と言って去っていった。毎日のことなのに、電車が来るまで何番線から出るのか決まっていないなんて不思議だ。

なかなかホームの番号が表示されない。発車5分前になって、やっと「3」という数字が出てきたので、3番線に急ぐ。リックを背負った多くの若者たちも、その列車めがけて集まって来た。

チェコの田舎の田園風景の中を電車はゆっくり走る。iPhoneを見ると、今晩泊まるペンションからメールが届いていた。「何時頃着きますか?」と聞いている。「いまクルムロフに向かう電車で、到着は6時近くになる」と返信。お腹がペコペコだ。リンツに向か列車でサンドウィッチをひとう食べたきり、何も食べていない。リンツ行の特急には食堂車があったかもしれないが、それ以降の列車にはあるはずもない。乗り換えの時間も短く、お昼を食べる時間などなかった。水だけは大きなペットボトルに半分入っていたのをバックパックに入れてきていた。パソコンが入っているので、水が漏れたら嫌だな思って、ザツルブルグのホテルに捨てて来ようと思ったのだが、持って来て本当によかった。この水が生命線だ。この水がなかったら、喉が渇いて大変なことになっていたかもしれない。日本なら駅構内でもホームでもどこでもすぐに自動販売で水が買えるが、その便利さは世界の常識で考えれば異常なことなのかもしれない。

車掌がやって来た。ユーレル・パスを見せると、チェコ語で「それは使えない」と言っているようだ。ザルツブルグ駅のチケットカウンターの職員も「クルムロフへの電車では料金を支払わなければならないかもしれない」と言っていた。この路線は国鉄ではなく私鉄なのかもしれない。「Euro OK?」と聞くとOKだと言う。ユーロの小銭を手のひらに載せて見せると、その中から何枚かのコインを取って、チェコ・コルナの貨幣でお釣りをくれた。

クルムロフの駅で降りて、iPhoneマップを頼りに20分歩くと、小さなペンションに着いた。昼抜きたったので、とにかく食事をしなければ。近くのレストランを紹介してもらい、お皿に大盛りのサラダと大きな豚肉のフリット。パンもつけてもらう。それを全部平らげてしまった。