旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語』(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に 出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えました。いま世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆とともに、旅先ではこのブログを書いています。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語」(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えます。それからは世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆をする予定。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

洗濯とショパンの1日

629日(土)、明け方にブログを書き終える。昨日ホテルの近くのコンビニで買っておいたパンをかじり、シャワーを浴びてコイン・ランドリーへ。ワルシャワに着いて最初に行くのが洗濯屋だとは、村上春樹ではないが「やれやれ」と言いたくなる。

ホテルの中ならWiFiが使えるので、一番近いコイン・ランドリーがどこかすぐにわかる。紙の地図にもその場所に印をつける。こうすれば街中でGoogle Mapが使えなくなっても大丈夫だ。歩いて20分とある。私の脚なら30分かかるだろう。

近くの公園を抜けて、幹線道路の下のガードをくぐり抜けてひたすら歩く。マップには「到着しました」と表示されるが、目的のコイン・ランドリーがどこかまるっきりわからない。行きつ戻りつしながら、うろうろすること10分。マンションの入口近くに「Eco- Speed」というコイン・ランドリーの看板があった。

洗剤はプラハに着いてすぐコイン・ランドリーに行った時に自動販売機で買ったのが半分残っていた。個々の選洗濯機や乾燥機にコインを入れるスロットはない。液晶パネル付きの機械があった。これで何らかの操作をするのだろう。スクリーンをタッチすると、いくつかの国旗が表示された。これは言語選択のためだろう。イギリスの国旗にタッチすると、表示は全て英語になる。

Washing」というところをタッチすると、次に「1.Washing」「2Washing」・・・というふうに10までの項目が出てきた。それぞれお湯の温度と洗う時間、金額が表示されている。だが、1も2も同じWashingで温度も時間も値段も同じだ。「1. Washing」の後の「30」は時間だろう。次に「20」とあったので、20ズウォテイ札をこの機械のスロットに入れると、スッと引き込まれていく。何かよくわからないが、これで受け付けられたようだ。

さて、次にどうしたらいいのだろうか? これまでの人生経験で得た記憶を総動員させて一生懸命に考える。すると、洗濯機には番号が1から10までついていることに気づいた。そうか、この液晶パネルの数字は、それぞれの洗濯機の番号なんだ。1番の洗濯機の液晶パネルが点灯している。この洗濯機を使えばいいんだ。

中に洗濯物を投げ込み、上の方にある箱に洗剤を入れて緑のボタンを押す。しばらく祈るような気持で見ていたら、洗濯機が回り始めたではないか!

その間、まわりに何があるのか偵察。歩いて5分ほどのところにショパンミュージアムがあった。チケット売場で、何時までか聞くと「夜8時まで」とのこと。そうだ、洗濯が終わったらここに入ろう。

洗濯が終わると今度は乾燥だ。パネルの「Drier」というところをタッチすると、乾燥機の番号、時間と値段が表示される。30分か45分か迷ったが、「45分・20ズウォティ」を押す。乾燥機は勢いよくまわり始めた。

45分ある。またブラブラ歩いていると、シュリンプ料理の小さな店があったのでそこに入り、シュリンプのテンプラを注文。パンも付いてきた。マヨネーズやチリソースなどをつけて食べる。おいしかった。

洗濯物を入れたビニール袋を下げて、ショパンミュージアムへ。クロークでバックパックと洗濯物を詰め込んだビニール袋を預ける。この高尚なミュージアムで預けるには、一番ふさわしくない荷物だ。

ショパンポーランドの作曲家。「ピアノの詩人」とも呼ばれ、数多くのピアノ曲を残している。私は列車で旅をしているので関係ないが、ワルシャワの空港はその名も「ショパン国際空港」。これには「坂本竜馬」もビックリだろう。

ところで、イタリア語ではショパンのことを「チョピン」と言うのをご存じだろうか? スペイン語でもそうだったかもしれない。私はテレビ大好き人間なのだが、ほとんどテレビ東京CSの歴史チャンネルしか見ない。例外は「ぽつんと一軒家」だ。これはテレビ朝日だったか? それはともかく、歴史チャンネルのドキュメンタリー番組を音声多重の英語放送で見ていたら、ショパンのことを「チョピン」と言っていた。一応「英語表現研究家」という肩書で本を書いている身としては、このおもしろいネタをいつか本に書いてやろうと思い、頭の中に叩き込んだのだった。ところがその後、念のために電子辞書の音声機能で発音を確認すると、まともに「ショパン」と言っているではないか? あれは幻聴だったのか? それともアメリカ人やイギリス人でも「チョピン」と言う人がるのか? 今その真相を突き止めているところだ。

この博物館は、もちろんショパンにまつわる展示が数多く並んでいる。実際にショパンが弾いていたというピアノもあった。大きなスクリーンでは、日本人らしきピアニストが感情豊かにショパンの曲を演奏する映像が流れていた。隣に暗い部屋があり、何台もの液晶パネルがあった。ワルツ、バラード、ノクターンなどの形式別にショパンの曲のほとんどが聴けるようになっている。

ワルツのパネルで、一番上の「ワルツ、Eフラットメジャー」という部分にタッチすると、何と流れてきたのは「子犬のワルツ」ではないか。子供のピアノ発表会でも一番多く演奏される曲だ。こんな有名な曲だけではなく、何だ、この美しくもおもしろくもない曲はと思わざるを得ないものもあったが、おそらくこのタッチパネルにはショパン作曲の全作品が聴けるようになっているのだろう。1時間以上かけて20曲も聴いていると、素人の私でもショパンがなぜ「ピアノの詩人」と呼ばれているかがわかるような気がした。

午後7時、洗濯物が入ったビニール袋を提げて最高の気分でホテルに戻る。ポーランド1日目は、洗濯とショパンという奇妙な取り合わせで終わった。