旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語』(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に 出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えました。いま世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆とともに、旅先ではこのブログを書いています。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語」(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えます。それからは世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆をする予定。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

入場券購入に1時間のヴァヴェル城、シンドラーの工場はSold Out

73日(水)、夜中に起きて朝6時までブログを書き、そのまま朝食を済ませてヴェアヴェル城に行こうと思ったが、9時まで3時間寝ることにした。昨日会った日本人から「ヴァヴェル城には早朝に行った方がいいですよ」と言われたが、まあ11時を目指していくことにしよう。本当にいつものことながら根性がなくて自己嫌悪に陥る。でも、こんなふうに無理をしないから、どうにか体が持っているいのかもしれない。

9時に目覚ましが鳴ったが、どうしても起きられない。そのまま寝る。気づくと1010分。チェックインの時に「朝食は630分から1030分まで」と言われた。大急ぎで着替え、1階のダイニングルームへ。もう片づけが始まっていたが、ウェイトレスに部屋のキーを見せて「10分で食べますから」と言って、大急ぎで食べる。

部屋に戻り支度をし、1130分にヴァヴェル城に向かって歩き始める。公園を抜け、街中の石畳の歩道を早足で歩くこと30分、お城が見えてきた。

17世紀にワルシャワに遷都するまで、クラクフポーランドの都だった。王様はこのお城に居を構えていた。日本で言えば、京都のようなところだ。だが、この街は一時オーストリアの領土となったこともあったと言う。中欧の街はみな波乱万丈の歴史に彩られている。

城内へと続く坂を登って行くと、長い行列があった。一番後ろに人に「チケットを買うための行列ですか」と聞くと「そうだ」と言う。列の長さは30mメートル。恐らく50人ほどが並んでいるが、窓口はたったひとつ。昨日会った日本人が「早朝に行った方がいい」と言った理由は、これだったんだ。自分の順番が来るまで1時間、いや1時間半かかるかもしれない。

ふと、場内にもチケット・カウンターがあるかもしれない。先に行ってみて来ようかとも思ったのだが、もしなかったら、またこの列の最後尾に並び直さなければならない。その間に列はどんどん長くなってしまうのだろう。妻や友達と一緒なら、ひとりが先を“偵察”し、他の人が列に並び続けることもできるが、私はひとり。仕方なしに列の最後尾で、じっと順番を待つことにした。本当に合理的ではないと思うが、考え方を変えれば、こうやって“入場制限”をしているのかもしれない。

なかなか列は進まない。ひとりチケットを買うのに数分かかっている。行列から離脱する人も出始めた。3人とか多い時には7人くらいが諦めて、門をくぐり城内に入っていく。中庭を散策し、建物に入らなくとも外から見るだけでも十分だと判断したのだろうか?

そこに突然、女の人が2人行列に並ばずに窓口に向かって行った。一番先頭に割り込み、何か窓口で話を始める。そのまま15分ほど、まったく列は進まなくなった。先ほど買ったチケットに不備でもあり、文句でも言っているのだろうか? すぐ後ろの人も自分の順番の直前で割り込まれたのに、文句も言わず淡々と待ち続ける。

やっと私の番が来た。窓口の上の表示を見ると、小さく「チケットは城内の案内所にある3つのカウンターでも購入できます」と書いてある。何だ! この先の窓口で買えば、こんなに待たずにチケットを買えたんじゃないか! だったら、誰にでも見えるところに大きな看板を出しておくとか、他の係が列に並んでいる人に大声を出して知らせるという方法もあるだろう。なぜ、そういうことを考えないのだろうか? 訪れる人にこんな苦痛を与えず、少しでも喜んでもらうという「おもてなし」の心はないのだろうか?

私は怒りを隠して、「シニア料金はありますか?」と聞いた。「パスポートはホテルに置いてきてしまいましたが・・・」と言うと、私の歳を尋ね「シニア料金でいい」と言ってくれる。いくつかの建物があって、自分が入りたいものを選べるらしい。私は王の居室だった「State Room」、昔の城跡の遺跡「Lost Wawel」(ヴァヴェルはこう綴る)、「Tower」(塔)に入るチケットを買った。

State Room1時間ほどかけゆっくり見学。Lost Wewelはサッと駆け足で。ところがTowerの場所がわかならない。30分ほどうろついて、とうとう城の周りを1周してしまった。チケットの地図をじっくり見て、場内の標識の矢印の通りに進むのだが、その矢印が途中でなくなってしまう。カフェがあり横の細い路地を抜けると、その「塔」はあった。上に昇って街の写真を撮り、大急ぎで中央広場に向かう。

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また道に迷い30分歩くと、思いのほか広い広場があった。以前は市庁舎だったという塔、立派な外観の教会、中央には布の取引が行われていたという「織物会館」という建物もあり、その通路の両側には土産物屋が並んでいた。

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しばらくその広大な広場をうろついていると、観光案内所があった。「オスカー・シンドラーの工場に行きたいのですが、路面電車の停留所はどこにありますか?」と聞くと、地図を差し出して印をつけてくれた。「ここで78番の路面電車に乗ってください」と親切に教えてくれる。

停留所に向かって幾つものカフェが並ぶ歩道を歩いていると、看板にポーランド料理の写真があった。これまで土地の名物料理を食べていない。そこにいたウェイターに声をかけると、白いテントの下のテーブルに案内してくれた。メニューに写真があった。丸く切り抜いたパンの中にスープが入っている。クラムチャウダーのような食べ物だ。コーヒーも一緒に注文する。普通のコーヒーのことを「レギュラー・コーヒー」と言っても通じない。「カフェー・アメリカーノ」と言うとわかってもらえる。

ポーランドの名物料理の丸いパンが出てきた。蓋を取ると、スープの中にはゆで卵が入っている。丸く切ったソーセージも。このソーセージを貝にしたら、そのままクラムチャウダーになる。パンはちょっぴり酸味がかっているが、それがスープをさらに美味しくしていた。スープを全部飲みパンは底だけを残した。残り少ないポーランドの通貨で支払い、チップを置いて、路面電車の停留所に急いだ。

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三叉路で停留所は3つあった。全ての停留所にチケットの券売機があるわけではない。一番人の多いところに行くと、やはり券売機があった。言語を英語にするが、どうしても最後がポーランド語になってしまう。シニアだから一番安い料金だと思ってそれを押すと、コインが戻ってきてしまう。近くにいた人に聞くと、これは「チャイルド」だと言う。もう一度コインを入れて「大人」らしきボタンを押すが、どうしてもコインが戻ってきてしまう。クレジットカードで払おうと、ポケットをまさぐっていると、横にいた人がコインがおかしいのかもしれない、と言って、私のコインを細かくしてくれた。それを入れてみると、チケットが出てきた。本当に世の中には親切な人が多い。

78番の路面電車が来た。降りる停留所の名前を書いたメモを片手に、iPhoneで目的地の「オスカー・シンドラーの工場」という博物館に対して自分の位置がどう移動しているかを確認。橋を渡った先の停留所から歩いて15分ほどだと言う。停留所の表示がどうもはっきりわからない。車内には電光掲示板のスクリーンがあるのかもしれないが、一番前に座ってしまったので、それも見えない。アナウンスはあるのだが、何を言っているのかさっぱりわからない。

私の位置が目的地からどんどん遠ざかっていくので、そこで降りる。どうやらひとつ先に来てしまったようだ。戻る電車に乗ろうか、歩こうか迷った。停留所の小さな電光掲示板に78番の電車が来るのが「7分後」という表示があったのだが、歩いていくことにした。

例によって道に迷いながらまた数十分、やっとのことで「シンドラーの工場」にたどり着いた。中に入ると、多くの人でごった返していた。チケットを買うために列に並んでいると、窓口の係員が「Sold Out」という札を出した。せっかく苦労してここまでやって来たのに。今日は夜8時までやっているはずだ。まだ3時間ある。なぜなのだろうか? 私の番が来たので聞いてみたが、とにかく「今日はメインの見学コースのチケットは売り切れ」の一点張り。「ただもうひとつ展示があり、そこは見ることができる。ものすごく小さな展示だ」と言う。仕方ないので、そこだけ見ることにした。ものの23分でそこを見る。シンドラーにはまるっきり関係ない展示だった。なぜチケットが売り切れになってしまったのか、その疑問を抱えたまま外に出る。

停留所に着いて、さてどうやって駅前のホテルに戻ろうかと考えていると、ホテルの近くを走っていたのと同じ番号の路面電車がやってきた。もし反対方向に行ってしまったら、また戻ればいいだけだ。その路面電車に飛び乗ると、ホテルの近くの公園が見えてきた。

もう私の人生でクラクフを訪れることはないだろう。やはりせめて「シンドラーの工場」は見学したかった。アウシュビッツ行きを断念したからなおさらだ。やはり早朝から動くべきだったのだ。だが、名所旧跡の見学とブログ執筆をどうやって両立させたらいいのだろうか?