旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語』(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に 出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えました。いま世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆とともに、旅先ではこのブログを書いています。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語」(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えます。それからは世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆をする予定。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

オンタリオ美術館。一生に一度のチャンスで特別展を見る

815日(木)、朝730分に妻と一緒にホテルで朝食。今日の英会話学校の授業は午後1時からとのことで、サラダからハム、ベーコン、ウィンナー、ゆで卵にクロワッサン、ヨーグルトに果物、アイスクリームまで、たくさんの料理をゆっくり食べる。なかなかおいしい。

食べ終わって、そのまま食堂で妻の宿題を手伝う。カナダ人の有名な写真家の人生を描いた英文を訳す。妻にはまだボキャブラリーがないので、いろいろ間違った解釈をしてしまう。例えばDepressionという単語。妻はこれを「憂鬱」とか「鬱病」と取っていた。だが、この単語には他に「不況」「不景気」という意味もある。最初が大文字で始まっているから、これは1929年にアメリカで始まった「世界大恐慌」のことになる。当時、多くの人が破産し、ウォール街では「空から人が振って来る」と言われるくらいの数多くの自殺者を出した。ドイツでヒットラー政権が誕生する遠因となり、日本ではコメ騒動が起こった。ついつい英語とは離れてそんな説明をしてしまう。他にもひとつの単語やフレーズが、辞書の最初ではなく後の方に出てくる別の意味を理解していないとわからないような英文となっていた。

私がふつうに読んでそのまま理解できることも、妻は辞書を引き引き読んでいる。会話はずいぶんうまくなったが、この段階からさらに英語力を伸ばすがなかなか大変なのだ。

それが終わると、地下鉄のダンタス駅近くのshopper’sに行き、トロント市内の地下鉄やバス、トラムで使えるpresto cardを購入。スイカパスモと同じようにカード代がかる。6カナダ・ドルだから540円。たった3日の滞在だけなので、もったいないような気もしたが、シニア料金で買えるのはこのパスだけ。大人が1回乗車で3.25ドルなのに、シニアは2.1ドル、何と1ドル以上安い。だったら6回乗れば、カード代のもとが取れる。そんなことを考え、このパスを買うことにした。もう年金生活者なので、爪に火を灯すようにして海外旅行をしている。

妻は11時まで宿題の続きをすると言うのでホテルに戻り、私は「オンタリオ美術館」に行く。ゆっくり歩いて20分ほど。この前の中央ヨーロッパの旅でもそうだったが、海外では建物が大きいため、そこにたどり着いても、入口がどこかわからないことが多い。オーストリアザルツブルグで美術館に行った時にも、入口を見つけるまで20分かかって建物の周りを1周してしまった。今回も同じく美術館の建物を1周し、やっとのことで入口を発見。日本ではそんなことはありえないが・・・。

列に並んでチケットを買う。10分ほどで順番が来た。陽気そうなおじさんだった。入場料は「大人22ドル」となっている。『地球の歩き方』には「シニア料金16ドル」と書いてあったので、シニアチケットがあるか聞いてみたが「ありません」と言う。「Ok, one adult, please.」と言うと、「何度もいらっしゃるのでしたら、年間パスが36ドルでお得ですよ」と言う。私が「I came form Japan all the way.」(私は日本からはるばる来ました)と言い、「This is my once-in-a-life-time chance.」(これが私の人生でたった一度のチャンスなんです)と付け加えると、そのユーモアをわかってくれたようで「Oh, that’s nice!」と笑ってくれる。

そして「いま日本の有名なアーチストの特別展をやっています。入口を入ったところにタブレットがあるので、そこで予約してください」と言う。誰だろう? 「その人の名前は?」と聞いたが、どうやら知らないようだった。「トロントの美術館で特別展を開くような芸術家と言えば草間弥生かな?」と思いながら、チケットを受け取る。

そのタブレットの前には10人ほどの人が並んでいた。パソコン音痴の私は、こういうのが一番苦手だ。6月にウィーンの軍事博物館に行った時も、チケット窓口で音声ガイドがあるか聞いたら、「スマホでダウンロートしてください」と言われてしまった。「ダウンロード」という言葉を聞いただけで、もう断念してしまったことがあった。他の美術館や博物館のように、旧来のイヤホン付きの音声ガイドにしてほしい。新しいテクノロジーに適応できない人も多いのだから。

待つこと10分、私の順番が来た。「まあ、わからなかったら後ろの人に教えてもらればいいや」と思っていたが、画面には「YAYOI KUSAMA」と表示されていた。やっぱり草間弥生だったんだ。まず都合の良い時間帯を選ぶ。一番早い「1245分から1時まで」をタップ。次に名前とアドレスを入力して「Done」と表示された箇所を押すと「予約完了」となった。ペーパーは出て来ないのか? 何が「予約完了」なのか訳がわからないが、とにかく時間になったら、その部屋の前に行くことにしよう。

まず2階から。The Group of Sevenと呼ばれるカナダの画家たちの絵が数多く展示されていた。イヌイットネイティヴ・カナディアンを描いたものもあった。雪景色のものが多い。昔のカナダの田舎の冬は、きっとこんなふうだったんだろうなと想像をかきたててくれる。

突然「草間弥生特別展」の入口にたどり着く。20人ほどの人が列を作り順番を待っている。その時「予約」の意味がわかった。iPhoneを開くと、やっぱり美術館からメールが届いていた。「You have a reservation. Aug 15th at12:45 PM」「We look forward to seeing you soon!」というメッセージだった。なるほど、こうやって予約するのか!

同じ階には、ヘンリー・ムーアの彫刻のコレクションもあった。箱根の彫刻の森美術館にもムーアの作品がある。1階には、ピカソゴッホ、モネ、セザンヌなどのヨーロパ絵画も展示されていた。

1245分になったので、「草間弥生特別展」へ行く。行列の最後尾にいたスタッフにiPhoneの画面を見せ、「私はこの特別展を見るために日本から来たんです」と口から出まかせを言うと、とても喜んでくれた。「日本には草間の美術館もあるんでしょ?」と聞かれたので、「ええ、残念ながら行ったことはありませんし、どこにあるか知りませんが・・・」と答える。化けの皮がはがれてしまった。

入口の扉の前では、美術館スタッフがストップ・ウォッチを持って、何か時間を計っている。23人ずつ中に入れると、トントンとドアを叩き扉を開ける。入っていた人が出てくる。すると、すぐに次の人が扉の中に入っていく。いやに回転が早い。だからすぐに私の順番が来た。

まず「荷物を横にあるボックスに入れてください」と言い、そして何と「時間は1分です。外からドアを叩いて、すぐに開けますから、出てきてください」と言う。訳がわからなかった。私は自分の英語のリスニングン力に問題があるのかと思い、「もう一度時間を言ってください」と聞き直すと、「One minutes. Sixty seconds.」と言う。「Do you mean six- zero?」と聞くと「Yes!」と答える。彼女が持っているストップ・ウォッチはその時間を計るものだったんだ。他のカップルと一緒に3人で入口を入る。小さな部屋の中に、たくさんの鏡が複雑にはめ込まれた不思議な空間だった。「写真を撮ってもいい」と言われ、3枚シャッターを押したのだが、このような世界的な芸術作品をみやみにブログに載せてはいけないと思い、残念ながらここでは紹介しないことにする。だが、なぜかこの小宇宙のような不思議な作品がいまも頭にこびりついて離れない。

結局4時間もこの美術館にいた。4時になると、猛烈な眠気が襲ってきたので、ホテルに帰って寝ることにする。外は土砂降りの雨だった。バックパックに傘を入れて来て良かった。

日本列島を襲った台風10号はどうなったのだろうか? その後には40度を超える猛暑が予想されているという。その日本とは別天地にいる。