旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語』(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に 出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えました。いま世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆とともに、旅先ではこのブログを書いています。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語」(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えます。それからは世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆をする予定。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

王宮からシシィ博物館、そしてベルベデーレ宮殿へ

615日(土)、iPhoneに「SIMカードがロックされた」という表示が出るようになった。地図も見ることができ自分の位置はわかるのだが、NAVIが使えなくなっている。何か変なパスワードを押してしまったのだろうか? ロックされてしまったということは、そのパスワードがわからないと、もう使えないのだろうか? また40ユーロ出して、新しいカードを買わなければならないのか?

本当に新しいテクノロジーに弄ばれている。だいたいSIMカードがどういうものなのか、なぜ必要なのか全く理解できていない。ただ「イモトのWiFi」や現地での「ロミング」よりもはるかに安いと言われたからSIMカードを挿入しているだけなのだ。

SIMカードを買った店に行って、おじさんに見てもらう。心配していたが、買った時に渡された、何種類かのパスワードがプリントされている紙を見て直してくれ、わかりやすいパスワードに変更してくれた。

だいたいパスワードを入れろとiPhoneに“命令”されても、何のパスワードかわからない。iPhoneを立ち上げる時のパスワードもあれば、アップルID、アップルのパスワードもあるし、新しいSIMカードにも2つのパスワードがある。他にもamazonやホテル予約のexpedia、飛行機は「エアトリ」、kindle、銀行のキャッシュカード、クレジットカードなどなど、1人の人間が数多くのパスワードに支配されている。

まあ、よくはわからないが、少なくともSIMカードをもう1枚買わなくても済んだので、それで良しとしよう。

ウィーンも今日で最後。明日には列車でザルツブルグに向かう予定。王宮に向かう。U1のステファンプラッツアという駅で降り、賑やかな歩行者限定の通りを歩く。大きい建物だと、どこが入口がわからないが、iPhoneはチケットを買う窓口に誘導してくれているようだ。

地図を見ると、ここには「王宮」「新王宮」と「シシィ博物館」という建物がある。これらはみんな別々なのか、チケットも共通の同じ施設なのかわからない。王宮の一番端の入口を入るとインフォメーションがあったので、そこで聞いて見ると「みんな別だ」と言う。私の場合は6日間有効のパスを持っているから、新たにチケット買う必要はないのだが・・・。

王宮は博物館になっているようだ。2階には、世界各地から集められた収集品が展示されていた。日本に関する部屋もあり、日本刀や武士の衣装、日本家屋のミニチュア。杉浦ひな子さん監修の江戸時代の浮世絵師に関するアニメも流れていた。

3階に上がると、昔の甲冑が数多く展示されていた。こんな重いものを身に付けて戦うのは、さぞかし体力が必要だったことだろう。10歳くらいの子供用のかわいい甲冑もあったが、きっと何歩か歩くだけでも大変だったに違いない。ましてや相手と戦うことなどできたのだろうか? その前に、自分との闘いに勝利しなければならなかったのだろう。

「甲冑」「鎧・兜」は英語でarmorと言うが、他にmailという言い方もある。最初はここに展示されているような重厚なplate mailだけだったが、あまりにも重すぎたため、小さな金属の輪を繋ぎ合わせてチェーンにしたchain mailと組み合わせて使うようになった。chain mailは刀で切られても大丈夫だったが、刀や槍で刺されたりするには弱かった。頭とか胴、脛には鋼鉄のplate mail、肩や腕などにはチェーンメールが使われたのだった。そんなことについても、『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語』を書いた時にずいぶん文献を読み込んだ。

この本にも書いたのだが、mailという単語には、他に「税金」と「郵便」という意味がある。「税金」という意味のmailは、今でもblackmail(脅迫・脅し)という単語に跡形が残っている(詳しくは『アダムのリンゴ』を読んでください)。「郵便」の方は、もともと「配達人が郵便物を入れて運んだカバン」のことをmailと言っていた。それが後にmailが「郵便」を意味するようになったのだった。去年のNHK文化センターでの講義では、そんな話もした。

甲冑の部屋の先に行くと、昔の楽器の展示があった。現在のピアノやギターの原型となる大昔の楽器も数多く見ることができた。

次はシシィ博物館。シシィとは、ハフスブルグ家最後の皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の妃エリザベートの愛称。1階には数多くの磁器や銀器の展示。他の国の王家からの貢ぎ物も多かった。やはりハフスブルグ王家には周囲の国々もいろいろ気を使っていたようだ。宮廷で一番高価だったという金の食器もあった。豪華だということはわかったが、これで料理を出されてもなんかまずそう。やはりきれいな模様のある陶器や磁器の方が出された料理がおいしく食べられそうだ。

食器のコーナーが終わると、いったん入口に戻ったので、もうここで終わりと思ったのだが、矢印はさらに先を指していた。その矢印に従って2階に上がると、皇帝フランツ・ヨーゼフやエリザベート(シシィ)など数多くの部屋もあった。

ヨーゼフの執務室もあったが、その説明が2日前にシェーンブルン宮殿で聞いた内容と全く同じだった。毎日5時に起きて重要書類に目を通して署名したと言う。庶民も含めた数多くの人々と面会したという部屋はシェーンブルグにもあった。考えてみれば、シェーンブルグ宮殿は夏の間の離宮だった。質実剛健な皇帝が、どちらの宮殿でもペースを乱さずに仕事をしたかったということなのだろう。

外に出ると、もう3時になっていた。モーツアルト・ハウスと土曜だけ開いている「第三の男博物館」にも行きたかったが断念して、ベルベデーレ宮殿へと急ぐ。オペラ座前から路面電車の「D」に乗ればすぐに行けるはずだ。ところが、ものすごい大音響が聞こえてきた。パレードをしていて、通りは多くの人々でごった返している。何かへの抗議デモのようでもあった。

みんな虹の7色の旗を持っていたので、この催しの趣旨がわかった。虹の7色はLGBTの象徴。この世の中にはいろんな人がいていい、それが自然だということを表しているのだ。でも、弱った。ベルベデーレ宮殿にどうやって行ったらいいのか? ちょうど観光案内所があったので、そこで聞いてみると「パレードやっているので、歩いていくしかない」と言う。「この建物から左の方に出て、その先を斜め右方向に曲がった先に路面電車『D』の駅があります。もし路面電車が動いていたら、それに乗ってください。もし動いていなかったら、さらに歩いて、その先の二股を左に行けば宮殿の入口があります」と、さすがにテキパキと教えてくれる。

パレードの列を横切り、先に進むと路面電車の駅があった。大丈夫だ、動いている。3つ先の駅で降ると、歩いてすぐのところにベルベデーレ宮殿の入口があった。チケットカウンターに行くと、美術館の入口へ直接行くように言われた。

広大な庭園を左に見ながら宮殿に入り、入口でパスをスキャンしてもらう。ベルベデーレ宮殿はトルコ軍からウィーンを救った英雄プリンツ・オイゲン公の夏の離宮があったところで、上宮と下宮の2つの建物がある。庭園のはるか先に見えたのが下宮だった。

上宮はオーストリア絵画の美術館となっている。特にクリムトの傑作の展示で知られ、代表作「接吻」は美術展に出品された直後に国が購入したほどの傑作だ。これまでヴィエーナ・パスを持っていればオーディオ・ガイドは無料だったが、ここでは5ドル払う必要があった。その説明を聞きながら絵を見ていたら、515分になっていた。

もう庭園を歩いて下宮へ行く時間がない。また次にウィーンに来た時に見るしかないのか? 5年後か10年後か? 果たして、その時まで生きていられるのか、などと考えたのだが、79日にまたウィーンに戻って来ることを思い出した。その翌日に飛行機に乗るので、ブダペストを早めに出れば、また来ることができる。下宮にも行けるではないか。ホテルも中央駅の駅ビルの中だし、すごく近い。もうヴィエーナ・パスは期限切れで使えないが、もうそれはどうでもいい。入場料を払って入ればいい。そうだ、モーツアルト・ハウスにも行ってみよう。

ベルベデーレ宮殿を後にして、路面電車でオペラに向かい、ホテルの最寄りの駅に戻った。歩いて10分ほどのところに「DNBURI」という店があった。しばらくぶりで日本食でも食べるかと思い、行ってみると、何と今日は土曜日で閉まっていた。周りのレストランもみんな休業。1日中歩いてクタクタだったのだが、またカールズプラツアまで戻って、どこかレストランに入ろうかとも考えながら駅に戻ると、1軒のピザの店が営業していたので、ピザを買ってホテルに戻る。

明日は、中央駅から列車でザルツブルグに向かう。1か月の間に7日使えるユーロパスというのを日本で購入したのだが、使い方がよくわからない。駅のどこで誰に、使い始めを証明するスタンプを捺してもらうのか? 普通に切符を買って、列車に乗るのとはわけが違って、事前の手続きが大変そう。果たして、無事にザルツブルグに行けるのだろうか? 

そんな未知のことをひとつひとつ、クリアーしていくたびに、何か自分が自由になって解き放たれるような気がする。それが私にとっての旅の醍醐味なのかもしれない。