旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語』(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に 出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えました。いま世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆とともに、旅先ではこのブログを書いています。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語」(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えます。それからは世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆をする予定。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

トロント・アイランドで人生を変えた看板に再会し、夜には野球観戦に行く

816日(金)、妻は英会話学校8時からの授業に行ってしまった。私は朝食を済ませてから、船に乗ってオンタリオ湖に浮かぶ「トロント・アイランド」に行くことにした。以前、家族でトロントに来たことがある。もうかれこれ35年も前になるだろうか? その時トロント・アイランドに行ったことがある。市街から目と鼻の先の島だ。

去年の4月にクルーズ船に乗って2週間の大西洋横断の旅をした。その時にも、何人かのトロントからか来ている人と知り合い話をした。「トロント・アイランドに行ったことがあります。レンタル自転車を借りて島中を走り廻りました」と言うと、みんな「この前、島が水没してしまって、大変だったんです」と言っていた。「島の一番端にセスナの飛行場がありましたが、あそこも水没したんですか?」と聞くと、「そうなんです。しばらく飛行場は使用できませんでした」と話していた。

まだ朝早かったので、チケット売場もすいていた。例によって、窓口で「シニアチケットがありますか?」と聞いたら「あります」と言う。「One senior, please!」と言い、「Round trip ticket.」(往復チケットで)と付け加えた。島には家がいくつかあり人が住んでいるが、その人たちを除いては、片道で行く人はいないだろう。恐らく「片道チケット」自体、販売していないのではないか? 余計な一言だったかもしれないが、海外では念には念を入れないと。

船に乗り込んだ。天井にはたくさんの救命胴衣が所狭しと並んでいる。船は島に向かって走り始めた、後方にトロント市街の摩天楼が見える。やはりカナダ1の大都市だ。以前来た時も思ったのだが、なにかニューヨークと雰囲気が似ている。

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5分ほどで島に着く。そのまままっすぐ島の裏側に向かう。レンタ・サイクルの貸し出し所を目指して。35年前もこの道を歩いて、自転車の貸出場に向かった。その時のことを私は鮮明に覚えている。なぜならアルファルトの道の両側にきれいな芝生が広がっていて、そこに「Walk on the Grass.」という看板があったからだ。アスファルトの道を歩かずに、「芝生の上を歩いてください」と言うことだ。日本ならふつう「芝生に入らないでください」という看板があるはずだ。何で日本と反対なんだろう。そんな小さなことだが、この時私は「日本と外国の違い」に衝撃を受けたのだった。考えてみると、この時の驚きが、私の「英語表現研究家」としての原点だったのかもしれない。

日本でも「麦踏み」というのをやる。麦の根がしっかり地中に根付くように、上から麦を抑え込むのだ。この芝生もしっかりと根を地中に張るように、この島を訪れる人に芝生を踏みしめて歩いてくれるようお願いしているのだろう。

あの看板はまだあるのか? しばらく歩くと、何とその看板があるではないか! 私は懐かしい友人に再会したような気持になった。何十年経っても、不思議とその看板のことを時折思い出していたのだ。私は芝生に足を踏み入れ、看板の前で写真を撮った。

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自転車の貸出場に行ってみたが、朝早かったためかまだ閉まっていた。今日は夏休みの真っただ中、しばらくするとたくさんの人が自転車を借りて、島中を走り回るのだろうが、まだひっそりとしていた。

島の突端の桟橋までやってきた。オンタリオ湖来は北アメリカの五大湖の中では一番小さな湖だというが、世界で14番目の面積を持つ湖だ。対岸はまったく見えない。

また島の中央に少し戻る。鬱蒼とした森や林の木々が芝生の広場を囲んでいる。本当に美しい島だ。広場にあるベンチに座り、のんびりと思い出に耽る。こんな形でまたトロント・アイランドを訪れることになるとは想像もしていなかった。歳をとって退屈な時間というのがなくなった。これまでの人生で得た思い出を振り返るだけでも、十分に満ち足りた気持ちになれるからだ。

午後115分に妻の最後の授業が終わる。私は130分に英会話学校1階にあるカフェで妻と会うことになっていた。時計を見ると、もう11時。あっという間に時間は過ぎる。ゆっくり船付き場まで戻り、12時発の船で市街に戻り、地下鉄に乗って英会話学校に行くことにしよう。

トロント側の桟橋に戻る。驚いたことに、島に行く船を待つ人たちでごった返している。それどころか、その手前のチケット売場の窓口にも長蛇の列ができている。地下道を走るトラムに乗って、ユニオン駅に戻ると、そこでもトラムを待つ人たちの長い行列ができていた。早朝に行ってよかった。妻とは学校が終わったら、午後トロント・アイランドに行ってみようかという話をしていたのだが、とんでもなかった。

ユニオンから地下鉄で30分。妻から手渡された地図を見ながら、英会話学校に向かう。このあたりまで来れば、もう郊外、高いビルはそれほどない。1230分からカフェでアップル・ジュースを飲みながら、妻の授業が終わるのを待つ。

120分になり30分になっても、まだ妻は降りてこない。遅いなと思い、カフェの時計を見ると、まだ1230分を指していた。私は大きな間違いをおかしていたことに気づいた。私は時計の針を見ていたのだ。それは日本時間だった。トロント時間は、時計の小さな窓に数字で表示される。それは12時30分。日本時間とは11時間のずれがある。日本が夜中の1時だったら、トロントは昼間の12時なる。時計の針を見ていたために、1時間勘違いしていたのだ。先月旅をした中央ヨーロパではそんな間違いを犯したら、飛行機や電車に乗り遅れたりして致命的だったかもしれない。

トロント・アイランドでのんびりしていた時、いやに時が過ぎ去るのが早いと思ったのは、針とデジタルの時間を取り違えていたからだったからだった。

さらに1時間ひたすら待っていると、妻がカフェにやってきた。台湾から来たルルという女性を紹介される。日本から『世にもおもしろい英語』中国語版と『アダムのリンゴ』の韓国語版を持ってきていた。妻のクラスメイトに渡してもらえば、英語の奥深さがわかってもらえると思ったのだ。韓国の人がサインをお願いしたいというので、サインをする。ルルも「とても面白く読んでいます」と言ってくれる。

妻が一番お世話になった先生とも会うことができた。日本の静岡に住んでいたことがあり、「英会話学校や企業で英語を教えていました」と言う。だから英語を教えるのがとてもうまいと妻は感謝している。「今晩、ロジャー・スタジアムのブルージェイズの試合を見に行くんです」というと、「僕は日本のプロ野球が大好きだった」と言う。台湾から来ているルルに「王貞治は日本のプロ野球でナンバー・ワンの選手だった。日本でも台湾でも彼は英雄だ」と言うと、「私はその人のことを知りません」と言う。「えっ?!  台湾人なのに王貞治を知らないの?」と驚くと、妻に「女の子だし、世代も違うので、そんなに驚いたら失礼でしょ」と注意される。

ルルは学校の近くにホームステイしているとのことで駅の手前で別れ、地下鉄でホテルに戻る。妻に「せめてオンタリオ州議会議事堂だけでも見たい」と言うと、ミュージアムという駅で降り、雰囲気のある議事堂と隣のトロント大学のキャンパスを案内してくれた。

トロント・ブルージェイズシアトル・マリナーズの試合は午後7時から始まるので、5時にホテルを出て、地下鉄でユニオン駅に向かう。そこからスカイ・ウォークという通路を歩いてロジャー・スタジアムへ。

ドーム球場に入ると、初めて野球を観戦する妻が、カクテル光線に照らされたフィールドのあまりのきれいさに驚いている。シートは1塁側。1塁とライトの間あたりの一番前の席だった。グローブを持ってファールボールをキャッチするのにうってつけの位置だ。多くの子供たちがグローブを持っていた。4歳くらいの女の子が、手に小さなグローブをはめていてかわいい。ヤンキー・スタジアムなら日本人の観客も多いが、ここでは私たち以外に日本人を見ることはなかった。国際都市のトロントだが、台湾を除いて中国人は野球に興味がないし、アジア人もほとんどいない。

シアトルの練習を見ていたが、菊池雄星の姿はなかった(菊池は翌々日の試合で先発し、完投シャットアウトで勝利した)。ここはドーム球場なのに屋根が開くようになっている。試合開始の前から少しずつ開き始め夜空の下での野球観戦となった。アメリカとカナダの国歌斉唱が終わり試合が始まった。日本でも野球は試合結果をスポーツニュースで確認するだけで、実況中継は見ない。野球場でプロの試合を見るのも久しぶりだ。

野球も進化しているのだなと思ったことがある。内野手がバッターによって大きく守備位置を変えているのだ。それも左バッターなら、サードがショートの位置に来て、12塁間にファースト、セカンド、ショートが並んでいる。サードベースに近いところにボールが飛んだら絶対にヒットになる。三塁側にちょっと強めにバントしても出塁できる。右バッターなら、セカンドがショートの位置に来るから、12塁間はガラ空きだ。

 

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いま日本のメジャーの中継では「大谷シフト」という言葉が使われているが、これは何も大谷に限ったことではなく、恐らくすべてのバッターが打った球が飛ぶコースがコンピューターで導き出されていて、野手は全てのデータが頭に入っているのだろう。だから、昔広島カープがやった「王シフト」のように特別な守備ではないのだ。

試合はホームラン攻勢でブルー・ジェイズが勝利、地元のファンは大喜びだ。球場を出ると、夜空に向かってそびえたつCNタワーが見えた。

(写真が2枚ダブっていますが、削除の仕方がわからないのでご容赦ください)