大きなスーツケースを転がしてドーバー城見学
カンタベリーのCathedral Gate Hotelでコンチネンタル・ブレクファストを食べ、9時にホテルのすぐ横にある「Canterbury Cathedral」へ。私は長いこと、英国国教会の総本山はロンドンのセント・ポールだとばかり思っていた。しかし実際はここカンタベリーの大聖堂が総本山なのだ。
12世紀にトーマス・ベケットという大司教がいた。ヘンリー2世に気に入られて大法官となったものの、その後仲違いしてしまう。王が「あのいまいましい男を誰かに消してほしいものだ」と呟くと、忖度し過ぎた部下によって殺害されてしまう。
ベケットは死後に聖人となり、数多くの巡礼者がこのカンタベリー大聖堂を訪れるようになった。私が宿泊したホテルも、そのような巡礼者のために15世紀に営業を始めた旅館だった。
大聖堂の中にはベケットが暗殺された部屋や、フランスとの百年戦争で活躍したフランス軍に勝利したエドワード黒太子の墓もあった。黒い鎧を着用していたので黒太子(英語でBlack Prince)と呼ばれ、庶民の間でも人気があったが、王位に就く前に病気で亡くなってしまった。
次に向かったのは「ローマン博物館」。古ローマ時代には、このカンタベリーに多くのローマ人が住み始めていた。その時には今現在より繁栄しており、紀元1世紀から2世紀当時の様子を現在のアーチストが想像して描いた絵も展示されていた。とても不思議なのだが、その後あれだけ多くのローマ人は軍隊の撤退とともに、どこかに姿を消してしまい、街は廃墟のようになってしまう。
「カンタベリー・テイルズ」という施設も面白かった。ペスト(黒死病)が蔓延するロンドンからカンタベリーまでの巡礼をしていた一行が、旅の途中でいろいろ奇想天外な話を披露し合うという「カンタベリー物語」。音声ガイドを聞きながら、その物語を追体験できるという趣向だ。
午後1時、カンタベリー・ウエスト駅から列車に乗りドーバーへ。電車を降りた時にはかなり強い雨になっていた。大きなスーツケースを運んでいるので、駅か観光案内所で荷物を預けてドーバー城を見学しようと考えていたのだが、それはちょっと甘かった。タクシーの運転手に聞くと「観光案内所では預かってくれないだろうから、城に行ってチケットカウンターで聞いてみたらどうか」と言う。とにかくタクシーで城に向かう。チケット売り場では、案の定「自分の荷物は自分で責任をもって運んでほしい」と言う。チケットもシニア料金で19ポンド(2850円)。高い!
もう半分やけくそになって、ゴロゴロと大きなスーツケースを転がして坂を昇り、お城を見学する。塔の上に昇ったり、中世に掘られたトンネルに入る時だけは、あまり人目につかないところに置いて、階段を上り下り。
日本が特殊過ぎるのかも知れないが、「おもてなし」の精神はないのだろうか? 例えば日本を訪れた外国人が大きなスーツケースを運んで姫路駅に行き、そこから姫路城に向かう。その時に、その荷物を預かってくれるところがなく、姫路城の天守の上まで大きな荷物を背負って昇るだろうか? たとえてみれば、私がやっているのはそういうことだ。日本なら観光客の利便を考えて、駅にもお城にも荷物預かり場を設置するだろう。
お城のチケットカウンターに戻り、「駅までどうやって戻ったらいいのか」聞くと、「タクシーがいい」と言い、電話で呼んでくれた。電話代と手数料だけもお金を払おうとしたが「いらない」と言う。何だ、とても親切じゃないか!
ドーバーの駅からアシュフォードという駅で乗り代えて、今日のホテルがあるヘイスティングに向かう。
このアシュフォード駅は、正式名称が「アシュフォード・インターナショナル」。なかなか立派な駅だった。近くに大きな「国際空港でもあるのだろうか?」と不思議に思い地図を見たら、ロンドンとパリを結ぶ「ユーロ・スター」がこの駅で停車した後、かの「ユーロ・トンネル」に入るということがわかる。そうか! ユーロ・トンネルはドーバーから潜っているんじゃなかったんだ。