旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語』(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に 出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えました。いま世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆とともに、旅先ではこのブログを書いています。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語」(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えます。それからは世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆をする予定。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

美術史美術館で『アダムのリンゴ』の絵に出会う

朝一番でiPhoneSIMカードを売っている店を探さなければならない。フロントの女性に聞いたら、ホテル出口から右に行ったところにモバイルショップがあると言う。「But, it is complicated.」(でも、ちょっと複雑で)と言うので、そこへの行き方が複雑なのかと思ったが、そうではなかった。「この店では、いろいろな設定が大変なのだ」と言う。「だから、いつも私はグロサリー・ストアーでSIMを買ってスマートフォンに入れてもらっている。そっちへ行った方がいい」と言う。歩き回ってグロサリー・ストアの場所を探したが、どこまで行ってもみつからない。

仕方なしに、最初に教えられたモバイルショップに行く。店の主人らしき中東系のおじさんがいた。「1か月ほど周辺のヨーロッパの国を廻る」と言うと、「50ユーロのSIMがいいだろう。40ユーロにまけるよ」と言うので、それを購入することにした。

ソフトバンクSIMカードは日本で解除して抜いてきた。「あとはANP設定だけをすればいい」と聞いてきたので、その方法をプリントしてきた。自分でやろうとするが、そんなに簡単ではないようだ。おじさんが「俺が全部やるから大丈夫」と言ってくれて、いろいろやり始めるが、なかなかうまく進まない。「あれ、おかしいな?」という感じで何度も首を振る。だいたい日本語がわかないのだから、仕方ないのかもしれない。「Settingはどれか」と聞くので「設定」のアプリを教える。「あれ、最初の画面にならないなあ。どうすればいいんだ?」。そう聞かれても、IT音痴の私には皆目見当がつかない。そのうちに「apple IDを入力してくれ」とか「appleのパスワードも」とか言われて、日本から持ってきた秘密のパスワードなどをたくさん記してある手帳を見ながら打ち込む。そんなことを繰り返して40分、「ああ、これでいい」と言う。どうやら新しいSIMカードでの設定ができたようだ。おじさんの顔を見ると、汗がダラダラ流れていた。「iPhoneはダメだなあ。本当に分かりにくい」と言う。

ホテルのフロントの女性が「complicated」(複雑で)と言ったのは、ひょっとしたら、他の店でやってもらえばすぐにできるのに「この店でやってもらうと時間もかかて大変だ」ということを遠回しに言ったのかもしれない。この単語には「困難な」というニュアンスも含まれている。

とにかく妻に連絡をしていなかったので、LINEで電話する。心配しているかと思ったが、そうでもなかった。妻は最近までiPhoneに「お休みモード」があることを知らなかった。iPhoneを使い始めてもう5年以上に経つのに。いくらLINEで電話しても、いままで一度も出たことがなかった。つい1週間前に「なぜだろう」という話になって、「ひょっとしたら、お休みモードにしていない?」と聞いたら、「何それ?」と言う。「ちょっと貸して」と言って設定を見ると、案の定「お休みモード」になっていた。「こんな機能があることは知らなかった」と言う。私よりはるかにパソコンには強いはずなのに……。

最寄りの駅はホテルから歩いて5分。まず、地下鉄だけでなくバスや路面電車にも乗れる「8日間パス」を買わなければならない。いつも新しい都市に行くたびに、これが悩みの種。ワシントンDCやロンドンでは「地球の歩き方」の解説を見ながら、券売機とにらめっこし5分もかかって数日有効のパスを買った。バルセロナアトランタでは途中でわからなくなり駅員を呼んで教えてもらった。この駅では駅員もないし、どうしたらいいのだろう? 

ところが自動販売機のスクリーンには、いくつかのチケットやパスが表示され、その中に「8 day pass」という表示があった。40ユーロ80セント。タッチしてクレジットカードを挿入してpinコードを入力すると、何とパスが出てきたではないか。簡単すぎて驚いてしまう。だったら、なぜ他の都市は、券売機をあんなに複雑にしているのか?

改札はない。何かの器械が2つあったので、そのひとつにパスを差し込むとチンという音がした。一番下の部分に日付が刻印されたようだ。数字が1から8まで縦にならび、その間には線が引かれていた。毎日刻印しなければいけないのか? 駅員も誰もいないので、わからない。

U1」という線で「カールツプラッツ」という駅に行く。乗り換えなし。その駅には円形の地下街があり、そこにあるカスタマーセンターで「ヴィエナ・パス」が購入できる、と「地球の歩き方」には書いてあった。これを持っていれば、ウィーン市内の宮殿や美術館や博物館などにそのまま入れる。6日間有効のパスを購入。154ユーロだ。日本円に換算すると何と2万円。高い! 

でもシェーンブルン宮殿の見学はオーディオ付きで2000円、美術史美術館はシニア料金で1400円だ。十数か所の施設に行けば元が取れることになる。おまけにほとんどのところは行列に並ばなくてもいい。

さっそくシェーンブルン宮殿に行くことにする。ところが地下鉄のU4に乗ったはずが、どうもおかしい。間違えてU2に乗ってしまったことに気づく。だが、次の駅は「ミュージアム・スクエアー」。ここで下車すれば、美術史美術館に近いのではないか、と思い急遽予定変更。

駅から歩いて5分ほどで到着。チケット窓口で買ったばかりのパスを見せると、そのまま入れと言う。入口のスタッフがパスをスキャンしてくれて、入場することができた。

とても広い美術館なので、オランダとスペインの絵画のフロワーに絞る。オランダのフロワーには、私の『アダムのリンゴ』という本の表紙に使われた「人間の堕落」という絵があるはずだ。前の会社で同僚だった荒川君に聞くと「美術史美術館に行ったけど、そんな絵があったかなあ?」と言っていた。

入場から1時間ほどで、その絵に出会うことができた。ものすごく小さい。おまけに「キリストの架刑」の絵とワンセットの額縁に入っている。これでは荒川君が見逃すはずだ。

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3時間もゆっくり絵画を鑑賞し、オペラ座に向かって歩く。路上でクラシック・コンサートのチケットを売っている2人の若者がいた。1人に「どうだい1枚?」という調子で話しかけられる。私はNYに行ってミュージカルを見る時も、着いて3日以内は行かないようにしている。時差ボケで眠くて、いびきでもかいたら大変だからだ。「明日のコンサートで何かいいのない?」と聞くと、「特別にシェーンブルン宮殿の中で行われるコンサートがある」と言う。

カテゴリーAは76ユーロ、カテゴリーBは65ユーロ。「ではBで」と言うと、「実はBはもうソールド・アウトなので、カテゴリーAの席のチケットを65ユーロにしてやるよ」と言う。何かバナナのたたき売り(といっても若い人、知ってるかな?)みたいだ。「OK」と言うと、「ありがとう」と日本語で言い、チケットを印刷して渡してくれた。私はクレジットカードで払った。

その間、もう1人が通りを行く人に声をかける。みんな胡散臭そうな顔をして敬遠している。大丈夫だろうか? 本当に明日、コンサート会場に入れるのだろうか? 私は運を天に任せることにした。