旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語』(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に 出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えました。いま世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆とともに、旅先ではこのブログを書いています。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語」(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えます。それからは世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆をする予定。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

フェリーでフランスのカーンへ

819日、今日はポーツマスからフェリーに乗ってフランス・ノルマンディのカーンという街に行く。

昨日の夜に朝7時にタクシーを呼んでもらっていた。7時ちょっと前にフロンに降りて行ったが、スタッフは朝食の方の仕事にかかりっきりでなかなかチェックアウトができない。カードを返しながら「昨夜タクシーを予約したんですが・・・」と言うと、「外で待っている」と言う。だったら早くしてよ!

もう75分になっていた。タクシー運転手を待たせてしまったので、I’m sorry for my  5 minutes delay. と謝り、Japanese are very punctual, so I feel sorry.(日本人はとても時間に几帳面なんで、申し訳なく思っています)と付け加えた。すると、運転手は「知ってるよ。何か月か前に電車が1分早く出発しただけで、車掌がお詫びのアナウンスをしたんだろう?」と言う。そのニュース知ってるんだ。私は「1分ではなく40秒です」と時間に厳格な日本人らしく訂正した。

10分ほどでインターナショナル・ポートに着いた。私は車ではなく徒歩で船に乗る。それをon foot passengerと呼んでいるらしい。ターミナルのカウンターの前の行列に並んでいる時に、バックパックの中に入れてあったはずのeチケットのプリントがないことに気づく。きっとスーツケースにいれてしまったのだろう。でも、スーツケースを床に広げて出すのも面倒だ。カウンターの女性スタッフに「いまチケットのプリントが出て来ないんですが、そのiPhoneに写真があります」と言って、それを見せた。そこには予約番号が書いてあるので、それを見ればOKなはずだ。彼女は目を細くして番号を読みとり、パソコンに打ち込むと「OKです。帰りのシェルブールからプールまでのチケットも一緒にプリントしておきましたから」と言って、乗船券と一緒にeチケットも渡してくれた。

朝食がまだだったので「船にレストランはありますか?」と聞くと、Yes!と応える。もうひとつ、フランスのカーン港は市街からかなり離れたところにあるので、「港から町の中心地までのバスがありますか」と聞くと、「あります。でもバスの時間や料金についてはわかりません」と言う。バスがあることがわかれば十分なので、Thank you!とお礼を言った。

7時半から乗船開始。出港は815分だから、早めに港に来てよかった。実は、昨日7時半ごろにホテルにタクシーを呼べば十分に間に合うと考えたのだ。だが、海外では日本ならすぐに済むことでもとんでもなく時間がかかることがある。念には念を入れてタクシーを7時に呼んだのだ。

他の乗船客の後について行くとバスが待っていた。それで船まで行くらしい。飛行機ではバスに乗ってタラップまで行くことはあったが、ターミナルから船までバスというのは大西洋横断の半月のクルーズに乗った私でも初めてのことだ。

バスからは、乗用車がどんどん船に入っていくのが見えた。3分ほどで船に着く。船の横に取り付けられた昇降口から船に乗り込む。

入口のすぐ前が荷物室になっていて、私は大きなスーツケースをその中に入れた。安心した。大きな荷物を持って船の中を歩き回るのは大変だと思っていたからだ。船が出港してからしばらくすると、その部屋にはカギがかけられ、荷物が盗まれないようになっている。

フロントでレストランの場所を聞くと、上の階に3つあり、そのひとつはビュッフェだと言う。朝食を食べ終わると、バックパックからパソコンを取り出して、ブログを書くことにした。ところが画面が真っ黒で何も表示されない。充電切れのようだ。そういえば、今朝起きた時、iPhoneも充電率が20%になっていた。変圧器も多種多様なプラグも持ち歩いているので、世界中どこでも電源が使える。昨晩もiPhoneを充電して寝たはずだったのに、起きてみると全く充電されていないことに気づいた。ソケットの上にスイッチがあり、そこを押さないと電源がオンにならなかったようだ。仕方なしに部屋を出るまでの30分間だけ充電することができ、充電率はどうにか40%まで回復していた。だからパソコンは充電率がゼロになっていて起動できなのだ。これではブログは書けない。

諦めてデッキに出ると、細長いベンチがあったので、そこで昼寝をすることにした。朝8時半に出港してフェリーはフランス・ノルマンディのカーンに午後3時に着く。ということは6時間半かかると思いがちだが、そうではない。イギリスとフランスには1時間の時差があり、フランスの方が1時間早い。だから5時間30分の船旅ということになる。iPhoneは便利だ。タイムソーンが変われば自動的にその現地時間に変わる。以前のよう時計を調整する必要はない。

ベンチに寝転がっていると、時々船が揺れるのがわかる。懐かしい感覚。43日から15日まで、私はフロリダのフォーローダデールからスペイン・バルセロナまで大西洋横断クルーズをした。その時のことを思い出す。船で出会って親しくなったカレンとボブ夫妻。80歳なのに若々しくダンディなメルリン、いつも酒を飲んでいたカナダのトロントに住むイギリス人のジェフ・・・毎日同じレストランの同じテーブルで食事をして楽しく語らった。みんな元気だろうか? 

フェリーがフランス・カーンの港に着いた。またバスに乗って、ターミナルに行き入国審査を受ける。まだイギリスはEUから脱退していない。なのに、パスポート・チェックが必要なのだろうか?  同じEU内なら関税もかからないし、出入国の際の審査も必要ないと思っていた。

ターミナルを出たところにバス停があった。時刻表を見ると、船の時間に合わせてあるらしく、330分の出発になっていた。2つのバス会社のバス停があり、どちらとも同じ330分の出発になっていた。そのひとつに乗り込む。料金は2ユーロ。

バスは30分ほどでカーンの駅に着いた。どうやら市街地はその駅の反対側にあるようだ。私が泊まるホテルはカーンの真ん中にあるお城の近くだ。同じバスに乗ってきた女性にお城までの行き方を聞くと親切にも途中まで一緒に行ってくれて、「この道をまっすぐに行けばお城があります」と教えてくれた。カーンの出身でいまはイギリスに住んでいると言う。遠回りさせてしまったので、丁寧にお礼を言った後で「フランス語と英語の両方ができていいですね」と言ったら、「実は日本語も勉強しています。でも、とても難しくて」と言う。

お城までの道を歩く。実はもう40年も前にこのカーンに来たことがある。会社に入って2年目の年末と年始に2週間の休暇をとって訪れたのだ。その時は真冬でとんでもなく寒かったことを覚えている。カーン城にある博物館と美術館に入った。博物館にはフランスとイギリスとの闘いの歴史を解説するパネルがあった。このカーンという街はある時はイギリス、またある時はフランスの領土になっていたことを知った。カーンはCaenと綴る。不思議なスペリングだ。それはきっとフランスにもイギリスになり得ないこの街の運命を語っているようにも思えた。あれから40年。いまの私は『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語』という本を書けるまでの知識を持つようになった。あの頃は考えられなかったことだ。

駅からスーツケースを転がして、やっとのことでホテルにたどり着いた。駅からお城までこんなに遠かったっけ? こんなに大きな街だっけ? 若い私にはもっとこじんまりしていたように思えた。

子供の頃に行った場所に大人になっていってみると、ものすごく小さく狭い場所に感じることがある。でも、最近の私は記憶よりも広く大きく感じることが多くなっている。すごく近くて歩いてすぐだと思っていた場所が、思いのほか遠かったりする。それは、もしかすると私の脚力の衰えから来ているのかもしれない。

ホテルにチェックインして部屋に入り、すぐにブログを書こうとパソコンの電源を入れるが、やはり画面が真っ黒で何も反応しない。少し充電すればすぐに回復するだろうと思い、1時間ほど夕飯を食べに外に出て帰って来たものの、やはり画面は前のまま。何の反応もない。

弱った! もう3日もブログを書いていない。その間には、私の人生においても忘れがたく強く記憶に残る貴重なことがたくさん起こった。このままパソコンが直らないと、96日に日本に帰るまでブログも書けないことになる。iPhoneは画面が小さく、かなり目に負担がかかるので、極力見ないようにしている。だからiPhoneでブログを書くことは絶対に避けたい。

かなり長い間、プラグやコンセントや変圧器、パソコンの電源スイッチをいじくってみたのだが何の反応もなかった。その時だった。黒い画面にちらっと私のパソコンの「surface」という白い文字が浮かび上がった。しかしすぐに消えてしまった。

それから10分ほどして、またsurfaceの文字が浮かび上がり、画面に鮮やかな写真が現れたのだった。やった! 直った! やはり充電に時間がかかっていたのかもしれない。

だが、iPhoneの時間表示を見るともう12時(パソコンの時間は日本時間のままになっている)。船に乗ってはるばる英仏海峡を越えてフランスにやってきて疲労困憊の状態だったので、ブログを書くことを断念する。

もう3日も書いていない。これは「ブログのための旅」のはずなのに・・・。