旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語』(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に 出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えました。いま世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆とともに、旅先ではこのブログを書いています。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

旅三昧&ときどき読書+映画

私は小泉牧夫。英語表現研究家という肩書で『世にもおもしろい英語』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語」(IBCパブリッシング刊)という本を書いています。2018年4月に出版社を退職し、41年にわたる編集者生活を終えます。それからは世界中を旅しながら、本や雑誌記事の執筆をする予定。お金はありませんが、時間だけはたっぷりある贅沢な旅と執筆と読書と映画の日々を綴っていきたいと思います。

なんて世界は狭いのか!

夜はぐっすり眠れた。「ぐっすり眠る」は英語でsleep wellと言うが、他にsleep like a logとも言う。「丸太のように眠る」ということだ。ビートルズHard day’s NightにもIv been working like a dog, I should be sleeping like a log「犬のように働いた。丸太のように眠りたい」という歌詞がある。

5時半に目覚めメールやLINEをチェックする。だがその後、なぜかまた眠くなって寝てしまい、起きると10時半だった。今日も11時にまた船内時計が1時間進む。するともう12時ではないか。それはこの船内だけの時間なので、おりこうさんのiPhoneの時間も当てにならない。腕時計のワールド・タイムを手動で1時間進めるとアテネの時間になってしまった。明日はジブラルタルに着く。ならばパリの時間にしなければいけない。でも、それでは1時間遅すぎる。よく考えてみたら、この私の時計のパリ時間は冬時間になっていたことに気づいた。腕時計のマニュアルを取り出して、夏時間へ変更の仕方を見て操作すると、ちゃんと夏時間になった。これで船内時計とスペイン・フランスの時間とが完全に一致した。

TV画面で船の位置を確認すると、磁石マークの後が98度になっていた。90度が真横だから、マデイラ島から少し斜め北に向かって進んでいることがわかる。

再度メールをチェックした時に、WiFiの残り時間が65分になっていることに気づいた。おかしい昨晩には130分残っていたはずだ。恐らく早朝に目覚めた時に寝ぼけていて、Logoffするのを忘れたのだろう。また注意不足で無駄使いしてしまった。

お昼をすぐに食べないと、豪華な夕食が食べられない。すぐに15階のビュッフェに行く。4人掛けのテーブルで1人座って食べているとおばあさんが「ここいいかしら?」と言って座った。名前はRita。ボストンに住んでいて、15年前にご主人を亡くされ、今回も1人で船に乗っていると言う。本当にいろいろ話が弾んで1時間以上も話をしてしまった。彼女も暇だし私も暇だ。血液の血清に関する臨床研究をしていたという理数系女子(「リケ女」と言ったっけ?)だった。

彼女は「今朝は船がずいぶん揺れたわね」と言う。「本当ですか? 私は全く気づきませんでした」と言うと、「私の部屋は一番下の階で水面より少しだけ高いところに窓があるの。窓に波が当たってうるさかったわ」と言って、今朝部屋の中で撮ったという画像を見せてくれた。

大きな波が嵐のように激しく上下し、部屋の窓を激しく打ち付けていた。そういえば、さっきプールの横を通った時、床がひどく濡れていた。そのせいだったんだ。激しく船が揺れると、プールの水も左右に動いてこぼれ出し周りの床に溢れてしまう。

彼女は「長いことNYに住んでいたこともある」と言う。「NYは世界1の都市だけど、そこに住んでる人はみんなNYが嫌いだと言うのね」。確かに私の知っているニューヨーカーは誰もが、この街のことをよく言わない。私はNYについて持論を持っていて「NYは金持ちにとっては最高に住みやすい街だけど、貧乏な人にとっては最悪だと思います。きっとRitaにとっては住みやすかったでしょう」と言うと、彼女は「そうかもしれないわね」と頷く。

私は以前から、ある1つの単語について疑問があったので質問してみた。――去年「Brooklyn」という映画を観ました。1950年代にアイルランドからNYに渡ってきた若い女性が主人公で、彼女はブルックリンに住み、働きながらbookkeeping(簿記)の学校に行って勉強します。日本語ではbookkeepingのことを「ボキ」と言います。英語の発音をヒントにして、もう100年以上前にこの日本語が誕生したらしいんですが、その映画の中では、彼女も周りの人も「ボキ」と日本語と同じ発音をしてました。でも「ブックキーピング」とは言ってませんでした。bookkeepingのことを「ボキ」と発音しますか? 

彼女は応えた。「そうは言わないわ。それはbookieではないかしら。bookmakerを短くした言葉で、競馬などの賭けを―― だいたいは不法に――私的にやる胴元のことよ」。でも日本語字幕では「簿記」と訳されていた。数字は何かのトリックを使えば、ごまかせることも多いので、「簿記」を少し軽蔑的に表現して「bookie」と言っていたのかもしれない。なにこれ、もう60年以上前の話だ。

2時半になったので、Ritaは部屋に戻っていった。私も部屋に戻ろうとしてエレベーターの方に歩いて行くと、伊勢さんご夫妻がテーブルにいらっしゃった。お皿には山盛りの料理が載っていたので、「もう2時ですが、こんなに召し上がっていいんですか? すぐにディナーですよ」と言った。それをきっかけに長話をしてしまう。もう3時半になってしまったので、私は部屋に戻った。

もうお腹一杯だし、こんな食生活は健康に良くないし・・・などと思い、今日はレストランに行こうか行くまいか迷ったのだが、やはりあの「ダヴィンチ」の料理は最高においしいし、みんなも心配するといけないので結局行くことにした。MerlinとBob&Karen、Jeffももう来ていた。いつもの固定メンバーだ。

今日は簡単にスープと少しの肉で済まそうと思った(昨日は軽くスパゲッティ・カルボナーラで済ませた)が、スープとビーフを頼んだ。昨日ココナッツの冷たいスープを飲んだらおいしかったので、きょうもそれがあるかと聞いたら、「残念ながら今日はありません」とウエィターが残念そうに言う。結局、ココナッツ代わりの「ピーチ・スープ」と「ビーフ」を頼んだ。

ピーチ・スープは甘すぎ、ビーフは私の好きなステーキではなく、ワインの味付けのソースに絡めた柔らかい肉だったので、あまり食べられなかった。

伊勢さんの席に行って、そのテーブルにいる人たちに「Mr&Mrs Iseは午後2時半にビュッフェでお皿に大盛りのランチを食べていましたから、夕飯には来ないと思いましたよ」と言うと、みんなが頷いていた。奥様が「それほど多くはありませんでしたよ」と言う。

デッキに出て海を眺めていた。確かに今日は波が高い。隣で海を見ていた男の人と何気なく言葉を交わすと、その人はTomという名で、日本・フィリッピン・ドイツの米軍基地で小学校の先生をやっていたと言う。「日本の岩国基地には3年いた」と言う。「岩国に赴任して数日はホテルに泊まっていましたが、最初の日の朝にホテルの窓を開けると、目の前に錦帯橋とお城が見えたんです。その時の感動と言ったら、私の人生の中でも最高の思い出です」と言う。

娘が住んでいるフロリダの町の名前を言うと、「えっ、そこで2週間前に結婚式があって出席してきたばかりなんだ」と驚き、彼はWhat a small world!「なんて世界は狭いんだ」、私はWhat a coincidence!「何と言う偶然でしょう」と言った。